東海道五十三次 第四日
始まりのあるものには必ずいずれ終わりが訪れる。そして上り坂のあとには下り坂も―。

昨晩のゴール直後のボルト的興奮状態では一瞬忘れ去っていたものの、温泉に浸かった僕は内心でハッキリとその事実を見つめていた。そしてまた「ていうか上りだけじゃ箱根を制したって言えなくない?」という疑念、さらに「下り坂のほうがキツイとかって言うよね」という懸念が、しだいに僕の頭に浮かんできていた。ちょっとだけ。…しかし大丈夫、旅館の食事は朝晩共に部屋食だし、温泉には三度も浸かっている、しかも三度とも浴室独り占めだ。そんな僕を止めることなど誰にもできない、この下り坂を歩き切って堂々と箱根路を完全制覇してやるのだ!

そんな意気込みで出陣した僕を、箱根路は予想外の小ネタ攻めにしてきた。

遅めの朝食を摂り、最後に念入りに温泉に浸かってから、僕は満を持して朝9時半に旅館を発った。昨日の経験から学んだ重要な事実、それは箱根路にひとたび踏み込むと食糧調達が困難ということだった。朝飯はたんと食ったから良いが、水分は道中どうしても必要になる。食品価格の高騰している旅館では購入しなかったものの、出発直後に僕はさっそく自動販売機を見つけ、スポーツ飲料水を所望した。

と。自販機は「ヴンッ」と唸り声をあげたきり、ドリンクを吐き出すことなくそのまま黙りこくってしまった。というか素知らぬ顔で次の注文を待っている。投入したお金も返ってこない。どういうことだこれは。この寒さで内部に異常をきたし、便秘にでもなったのだろうか。あまりにシュールな出鼻のくじき方に衝撃を受けながらも、まだ近場に自販機はあろうからと気を取りなおし、先へ進むことにした。

宿場町を出てしまったが、しばらく進むと思い通り自販機を見つけて飲料水を入手。意気揚々とさらに進むといよいよ出ました、もはや箱根路名物としてお馴染みの「石畳へのご案内」。さっそく今日も始まったか、それにしてもずいぶん容赦ない下り坂がいきなり始まるものだ!と思いながらかき分けて入っていく。

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ずっと石畳の急な下り坂が続く。雪をうまくクッションとして使い、倒木なども速やかに排除しながら、しかしどうしてこうも下るのだろうか?場所によっては上り下りがあるには違いないだろうが、こんなにけっこう下りっぱなしということは…すでに箱根峠を過ぎたのか?いやガイドブックには「向坂を上ると箱根峠」と書いてある。おかしい。

下り坂が一通り終わったところでいよいよ「向坂」の案内が。なるほどこの急な坂か、さすが箱根峠の最後の上り坂だぜ!と強引に歩みを進めていくと、いきなり犬に吠えられた。そして飼い主の方が僕を見て、「アナタ、何してるの?」と。「ここは私有地!そこに向坂の看板あったでしょう?」とのこと。

はて…とりあえずお詫びを述べて先ほどの看板まで戻り、Googleマップ先生に聞いてみると、衝撃の事実がわかった。そう、先ほど踏み込んでしまった道は本当に私有地で、その前にずっと下ってきた坂こそが、まさしく向坂だったのだ。僕は出発直後、自販機の謎の抵抗について夢中で考察しているうちに箱根路への分岐点を一つ見落としていて、気づかないうちに向坂の終着点まで行ってしまい、そこで「ここが箱根路(の向坂の終着点)です」の案内を見つけてノコノコと下りてきたのだった。(私有地に入ってしまいご迷惑をおかけした方、本当にすみませんでした。)

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間違って歩んだ距離は往復で1km程度とはいえ、あまりに衝撃的な出来事に意気消沈。それでもどうにか坂を上り切って、箱根峠を突破、ついに静岡県に突入したころには少し落ち着きを取り戻し、いよいよ本当の下り坂へと突入していった。

陽の当たり方が異なるからだろうか、西側に来て明らかに道の様子が変わった。なんというか、東側がほぼ全区間通して鬱蒼とした人道だったのに対して、西側頂上付近は明るい自然道といった様相。なんだか若々しく生きている道という感じというか。草木が張り出してきて道を演出しているんだもの!

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こ、これは、思い切り走り抜けていったらトト〇とかいるやつなんじゃ!?♪ と思ったけど、これ腰の高さくらいしかないので走り抜けるのは困難だ。というかこんな自然の路がよくできたもんだなぁ、本当にト〇ロか何かがここらへんに棲んでるんじゃないの?じゃないとこんな獣道できないでしょー。

・・ん、獣道・・??

一瞬で血の気がひく。この一定の高さと幅を保った通り道は、「何か」がよくここを通っていると整いやすいに違いない。そして確かにここ箱根は人が少なく自然の豊かな、「何か」にとって棲みやすいかもしれない環境である、かもしれない。ん?んん??

落ち着け、もしも、もしも熊に出会ったとしたら、どうするんだ。歌えばいいんだっけ。いや熊に歌ってどうする。慌ててスマホで検索しようと試みるも圏外。既に結構な距離を入り込んでいたので、本気で心底おびえながらも意を決して前進を続けると無事に舗装道路に出た、そしてスマホが電波をキャッチ!さっそく調べると「出会わないように音を出したりしつつ進め」とのこと。(もちろんもっといろいろ書いてあったけど。)

そして再び箱根路は舗装道路を逸れて自然道へ。さっきほどではないが荒々しい道だ。おびえ切った僕は何か歌わないとヤバイという強迫観念に襲われ、聖子ちゃんの「Sweet Memories」を歌いながら通り抜けて行ったのだった。やがて広々として石畳のビッシリ敷かれたいかにも人道っぽい路に出た時は、足裏が痛くてもひたすらありがたかった。(今思えば、この季節は彼らも冬眠している、のだろうか?)

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ここらへんで箱根路もネタ切れになったようだった。全てのネタ攻めを最初の2時間に詰め込んで、あとは箱根路も黙って僕を通してくれた。午後2時10分、第十一の宿場、三島宿に到着。前の宿場からの距離は約15.7km(+間違えによる約1km含む)、所要約4時間40分、歩数27490歩。

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こうして箱根路を歩き切った僕には、舗装されて平坦な道路などもはや敵ではなかった。「さだまさしの関白宣言とかの方が良かったかな」なんて考えながらのんびり歩いていたら、すぐ着いちゃった。午後4時20分、第十二の宿場、沼津宿。前の宿場からの距離は約5.8km、所要約1時間20分(昼食30分除く)、歩数9343歩。

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感想。箱根路はやはり下りもぱねかった。ただ、「膝を攻める」というオーソドックスなスタイルではなく、飽くまで小ネタを散りばめるというこの周到さ。なんていうか、僕には「箱根路を制覇した」なんてやっぱり言えないな。箱根路先生に勉強させてもらった。そんな気分です。はい。(ちなみに膝には来ていない)

ちょっと今日は書きすぎた。


本日の通過宿場:十、箱根宿(出発)~十一、三島宿~十二、沼津宿(到着)
本日の歩行距離:約25km(GPS経路データを元にGoogleEarthで計測)
本日の歩行時間:約7時間
本日の歩数:39344歩


おまけ。宿に到着後、夕食を摂りに出かけて行ったら沼津駅前の西武沼津店が本日で55年の歴史に幕との場面に出くわしてしまった。始まりのあるものには必ずいずれ終わりが訪れる、のだね。長い間おつかれさまでした。

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by kan-net | 2013-02-01 01:52 |
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